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これは“事務”なのか!?『生きのびるための事務』を読んで

07/24/2024

新聞の書評で紹介されていて、気になったので読んでみました。

『生きのびるための事務』(原作:坂口恭平・漫画:道草晴子/マガジンハウス)

絵も内容も大変ユニークで、印象的な本です。

「自分はダメだ、自分なんて価値がない、生きる意味が見出せない」といった、孤独や絶望に襲われている人に特におすすめしたいです。

(うーん、これって事務なのかな~)という違和感は拭いきれませんでしたが、マネジメントもあえて事務的に捉えようということかもしれません。

そのへんも書いてみます。

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著者は坂口恭平さん

著者の坂口恭平さんは1978年生まれで、早稲田大学理工学部建築学科を卒業しており、帯のプロフィールをみると、

作家、画家、音楽家、建築家など多彩な活動を行う。

また、

2012年から死にたい人であればだれでもかけることができる電話サービス「いのっちの電話」を自身の携帯電話で続けている。

とあり、かなり多彩で幅広い活動をされていることがわかります。

マンガ担当は道草晴子さんという方で、全篇シュールな絵で楽しませてくれます。

実体験をもとに連載

本書については、POPEYE Webのインタビュー記事「祝・単行本化!『生きのびるための事務』とは何なのか。」にこのように説明されています。

坂口恭平さんの人気マンガ連載『生きのびるための事務』が単行本になった。もともと坂口さんがnoteに投稿していた記事を道草晴子さんがマンガ化し、全11講にわたりPOPEYE Webで連載されてきた人気作だ。

内容についてはこうあります。

物語は、夢を叶えたいけれど、お金もないしやり方もわからない、そんな21歳の坂口さんのもとに、優秀な事務員・ジムという不思議な存在が現れるところから始まる。彼のアドバイスに沿って動き出すと、次第に坂口さんの人生が動き出す。『生きのびるための事務』は世界初のスーパー事務アドベンチャーマンガなのだ。(後略)

坂口さんもインタビューのなかで、

「マンガの中の話はほぼ全部事実です」

と言っています。

だとすれば、そうとう奇想天外な生き方をしてこられたことは確かですね。

不思議なアドバイザー・ジム

主人公・恭平に的確なアドバイスをして人生を切り開かせていくのが、事務員のジム

ジムは、坂口さん自身の中に存在する「イマジナリーフレンド」だそうです。(参照:インタビュー記事

生きのびるための事務のマンガ
画像出典:「POPEYE Web」

ジムがもっとも得意とするのが文字どおり“事務”で、恭平にノートに現状や未来のことを具体的に書き出させ、打てる手はさっさと打たせ、他人の評価とは関係なく好きなことを貫いて生きていくことをすすめます。

私も経験ありますが、人生がグイグイと動いていくときって、この主人公のように次々と扉が開いていく感覚ってありますね。

自己肯定も否定もいらない

本書のなかでもっとも強く心に刺さったのが、「自己肯定感」についてのジムの言葉です。

「自己肯定感」という言葉は、いつからか自己啓発本を中心に、とても大切なものとして定着した感があります。

これをジムは喝破して、こう言うのです。

ジム:皆さん、自分を否定することが好きですよね。でも、その「自己否定」という《やり方》は間違っています。

恭平:間違った《やり方》?

ジム:はい。みんな「自己肯定感」なんて言葉に踊らされていますが、自己肯定も、おかしな《やり方》です。

(中略)

ジム:上手くいかない《やり方》を省みず、自分自身を無駄に疑って、怒って、その反動として「自己肯定感」を生み出そうとしていませんか?

そして、ジムはずばっとこう告げます。

ジム:否定すべきは《己》ではなく、己が選んだ《方法》のみである。

恭平:それだと自分を変えずに《やり方・方法》だけを変えれば、いいってことだもんね。

ジム:はい、そうすれば、どんなことも上手くいきます。

(以上、本書94~95頁より引用)

自分を肯定も否定もする必要はなく、自分が採っていた「やり方」を問題にせよ、ということですね。

読んだ瞬間、(うわ~)と思うと同時に、ふっと心の重荷がとれた気がしました。

本書にはこのようなジムの“名言”が数々登場します。

ところどころに出てくるジムの名言
ところどころに出てくるジムの名言

「生きのびるため」がポイント

上の引用箇所にもあるように、ジムの提言は示唆に富み、心の縛りを解放してくれます。

そのカギとなるのが“事務”というわけです。

読みながら、本書が「生きのびるための事務」という風変わりなタイトルであることを考えさせられました。

ジムの言葉は、自分を否定し、失望し、人生を投げ出したくなっている人たちに、

と問いかけてきます。

そして、いつの間にか心の重荷がとれて、希望の光が差し込んできます。

きっと大丈夫、どうせ最後は上手くいく

と。

坂口さん自身、自殺防止の活動をしておられることから、本書の主眼もそこにあるんじゃないでしょうか。

だから、「生きのびるため」の事務なのでしょう。

とはいえこれって事務?

とはいうものの、やっぱり「これって事務かなぁ?」という違和感は拭いきれません。

坂口さんは先のインタビューで、こう語っています。

でも事務だよね。事務以外にないもん。銀行に行って書類書くのは事務じゃないんだよ。事務は、やりたいことを実現するためにある。そういうことを伝えたかった。

きっとインタビュアーも「これは事務なのか?」という疑問があったんでしょう(笑)

坂口さんによれば、一般的に事務とされているのは「作業」に過ぎないということのようです。

そして、「やりたことを実現するためにある」のが事務だと。

まぁ、坂口さん的にはそうなんでしょう。

金銭管理やスケジュール管理、これからの計画などをノートに書き出して実行していく、それ自体は特に目新しいものではありません。

それをもとに戦略的に進めていくこと、それは「事務」というよりも「マネジメント」ですよね。

ただ、“戦略的”という大袈裟な捉え方ではなく、あくまで“事務的”に捉えてたんたんと続けていこうするのが、ジムの(坂口さんの)見方のように思います。

たしかにそのように“事務的”に捉えたほうが、精神論や強引さに陥ることなく、臨機応変に《やり方》を変えていけるかもしれません。

とにかく、一般的な事務の本ではありませんので、そういうつもりで買わないようにしてください(笑)

帯の裏
帯の裏

まとめ

生きのびるための事務

  • 著者の実体験をもとに書かれている
  • シュールな絵も魅力
  • ジムの名言は見所
  • 絶望しかけている人におすすめ
  • マネジメントもあえて事務的に捉える

生きる希望が見いだせない人はもちろんのこと、夢を実現させたい人、創作活動に打ち込みたい人、人生を生き生きとさせたい人にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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